『東京アパッチ族』の冒頭場面は新宿、タイトルに「東京」が入っているくせに、記憶の中では「東京」との接点が少ない。戯曲後半をニューヨーク滞在中に書いたことや、初演が大阪・扇町公園だったこともある。秋葉原での東京公演は観ていない。なので今回、名古屋で上演されるのは、しっくりくる。13年前の戯曲だが、おそろしく現在を予言している(はずである)この作品が、再び人々の目に触れるのは嬉しい。名古屋で私と同じ寅年の演劇人仲間が作った「寅組」の加藤智宏さんたちが推進者となり、七ツ寺共同スタジオ四十周年にこの戯曲を取り上げてくれたことも、素直に嬉しい。そしてこの劇にも「虎」が登場する。考えてみれば七ツ寺共同スタジオは、ずっと虎を飼っていた。はずである。嘘ではない。まだ見たことがない人は、うまくかわされているだけである。よし。今度こそ。七ツ寺で虎に会おう。
新宿梁山泊が初めて名古屋公演を行なったのは、1991年。それ以来幾度も名古屋公演はあったが、意外にも七ツ寺共同スタジオで公演したのは、2007年『風のほこり』が初めてだった。一歩足を踏み入れた時からいいようの無い懐かしさを感じる優しい劇場だった。その40周年記念公演として『東京アパッチ族』を上演するという…『東京アパッチ族』は1999年、世紀末に上演された。秋葉原駅のすぐ横のカラカラに乾いた空き地にテントを張った。そこは西部の荒野を思わせ、新幹線が走るのが見えた…。新宿梁山泊の作品の中でも、そのダイナミックさスペクタクルさはテントで無ければできない作品であると思っていたが、それをこの優しい空間で公演するという。あの頃想像した物語よりも、現実はどんどん加速していく…。2012年の「アパッチ族」は、七ツ寺からどんな風を吹かせ、どんな未来が創造されていくのだろう。